入庁、そして配属
-国庫補助金返還の危機-
入庁後の研修を終えて配属された先が「砂防課(後に「砂防・災害対策課」)」という部署だった。私の前任者は、業務多寡の影響で体調を崩されて約2年間休職していた。
驚くべきことに、その2年間のうちに前任者が担当とされていた業務は他職員で補完されておらず、その期間の業務は殆ど放置されていた。中でも、災害関係の国庫補助事業に関係している施策「砂防指定地の指定」が放置されていたため、国土交通省から「奈良県庁は違法な公金を支出している状態。国庫からの数十億円の補助金を返還してもらう」と厳しい指摘を受けていた。
私の初めての「公務」は、国土交通省に補助金返還の猶予を取り付け、停滞した業務を推進することだった。2年分の膨大な事務のうち、約半分は協力的な出先機関の職員たちの支援もあって半年で片付いた。しかし、本庁と出先機関の役職者らによる責任の押し付け合いが繰り広げられ、非建設的で無意味な会議ばかりが行われ、残り半分は出先機関の職員たちに責任を放棄される状況が続いた。銀行員出身の私には到底理解し難い状況だった。
私が担当して半年程度が経過したこともあり、出先機関の役職者は私に「責任」を押し付けるようになった。非協力的な姿勢をとっておきながら、入庁1年目の職員に対してなんと卑怯なやり方だと感じると同時に、彼らは自分たちの保身のことしか考えていないことを知った。本庁役職者らも半ば諦めているような状況だった。
私は、自らが担当する施策推進のため、マスメディアの協力を得て、県庁の不誠実な実態を指摘してもらった。若手職員が役所内部で必死に駆け回っても、古い大きな組織を動かすには難しかったが、マスメディアの影響力は彼らを改心させた。それからさらに半年後には、前2年間と当年分の3年間の業務を終わらせることができ、数十億円に上る県費の支出を回避する成果を上げたと自負している。
そして、この時に、役所という組織は、県議会やマスメディアを始めとする国民からの監視がなければ動かないということを知った。
ずさんな税制運用を改善
-全国ワースト4位からトップクラスの水準へ-
災害防止のために一定の行為規制が定められた区域では、固定資産税が減額されるという制度がある。しかし、奈良県と県内市町村は、単に「事務が膨大だから」という理由だけで、この制度による措置を講じていなかった。
民主主義の大前提である租税法律主義は憲法に規定されているが、奈良県及び県内市町村は法律に規定される水準よりも高く税金を課していたことになる。
技術的な理由から当該減額措置の実施がやむを得ず困難な場合もあるが、奈良県内のこの措置の実施率は、全国ワースト4位のわずか17パーセントだった。一度、ご自身の固定資産税の明細を確認してほしい。私は当時の上司に進言して全ての市町村に指導ないし法的に技術的な助言をすることで、実施率17パーセントから96パーセントに引き上げ、全国トップクラスの水準にまで引き上げることができた。これは、適正課税を推し進めるということだけでなく、詳しい説明は省略するが、防災事業の促進にも寄与する施策である。総務省と国土交通省は、全国の模範事例として奈良県における私のこの取り組みを評価した。
ただ、私が最も不可解だったのは、入庁1年目職員である私が取り組めることを、なぜ県庁の公務員たちは放置してきたのかということだ。
各種規制区域のホームページ公開へ努力
-最少の費用で最大の成果を-
行政は、都市計画区域や土砂災害警戒区域など、開発行為を規制したり危険箇所を周知したりするために、様々な区域を指定している。私が職務上関わった土砂災害に関する指定区域だけでも、奈良県内には20,000箇所ほども存在する。都市部では「災害関連の規制区域なんて、この地域には関係ない」と思われる方も多いだろうが、実は全くそうではない。例えば、土地の造成や樹木の伐採等の行為が規制されている砂防指定地は、奈良市内ではあやめ池、西大寺、平城、神功、その他の住宅が並ぶ地域もたくさん含まれている。この区域に指定されていることで地価が下落する事例も多く、皆さんも経済的な観点からも興味を持っていただけるはずだ。
これらの指定区域は県が管理義務を負うが、驚くべきことに、奈良県では法定される「砂防指定地台帳」が何十年も整備されないまま放置されてきた。県民がこれらの区域を自身の目で確認する方法がないばかりか、奈良県庁の担当部署自体も区域を正確に把握できていないのだ。
これは、住宅開発や不動産取引等の経済活動に支障を来すだけでなく、上述のように土地や家屋の取引価格、固定資産税等の税額にも大きく影響し、国民生活に弊害を来す。他都道府県は「紙ベースの台帳をどのように電子化してホームページで公開するか」という段階で検討がなされているのに、奈良県では「台帳に不備ある現状をどのように隠蔽しようか」ということが検討されている次元なのだ。
「さすがにそれは大げさに言い過ぎだろう」と疑われるかも知れないが、この実態は誇張でも何でもない。規制区域内における違法行為を取り締まるべきはずの県がその規制区域を把握していないために、適切な行政指導や取り締まりなどを行っていなかった事例は数え切れない。皆さんもニュースでご覧になったことがあると思うが、悪質な違法盛土行為が発生したにもかかわらず、管轄の県土木事務所が規制区域を把握できなかったために公訴時効を徒過し、その盛土が崩壊して近隣住民の生命に危険を及ぼした事例もある。
私は、在職中にこれらの指定区域を全てホームページで公開する取組みを行った。国立大学や学術研究所、測量会社等にも無償で協力を取り付け、事業費は「実質ゼロ」で完成間近まで取り組んだ。ところが、「議会やマスメディアの注目を引きたくない」「寝た子を起こしたくない」という理由で、私が作成した資料(下図右側)を隠蔽するよう上司から指示があった。
当然のことではあるが、県担当部署の思惑は的外れで、「作成した資料を隠蔽する悪質な体質」が議会やマスメディアから徹底的に批判されることになった。しかし、後述する理由で現知事は私に異動命令を出してしまっていたので、それを担当できる職員が他に見つからなかった。奈良県は現在でも、議会答弁等でその資料の存在を否定している。当然ながら、これは虚偽の説明だ。当時の担当者である私自身が資料を作成したのだから、間違いない。
また、さらに悪質なことに、私が実質ゼロで整備した資料と同じものを、奈良県は1億円近くもの費用を支出して業者委託してこれを作成しようとしている。このような行政を黙認し続ける県議会にも責任があることは明らか。皆さんはこのような実態を信じられるだろうか。私は大真面目である。奈良県庁の、息をするように議会で虚偽説明をする体質、税金を湯水の如く使う体質、私は皆さんと一緒に徹底的に改革していきたい。
大規模違法掘削行為案件の放置を指摘
-全国ニュースにより明らかに-
平成28年4月から約1年間にわたって、奈良市月ヶ瀬地内の大規模土砂違法掘削事件がニュースとしてテレビや新聞を賑わせた。
住宅地違法盛土放置・偽装工作を糾弾
-奈良県庁の隠ぺい体質-
生駒市内の住宅地違法盛土事件がニュースとしてテレビや新聞を賑わせた。違法盛土行為に起因して住宅街の斜面に亀裂が発生したまま、奈良県はこれを放置し続けた。さらに驚くべきことは、これが明らかになると大問題になるからと言って、業者に是正させたり、行政代執行をしたりするのではなく、一般の公共事業に紛れ込ませて是正工事をして隠蔽してしまおうという計画があったことだ。
私は「税金の使い道としておかしい!」と正論を貫き通したが、その結果、出先機関への異動を命じられた。民間ならば、正論が通じない組織は崩壊していく。奈良県庁が崩壊していないのは、公共機関だからという理由に過ぎない。
さらに、前述の大規模違法掘削行為案件の放置問題では、県の対応の杜撰さを示す行政文書の隠蔽が図られていた。隠蔽行為に対しては他県では処分されているが、奈良県では誰も処分もされず責任を取ることもなかった。
報道機関関係者や一部県議の粘り強い抗議によって、約2年越しに真実の行政文書の存在を県は認めたが、その抗議がなかったら闇に葬られたままだった。